物流よもやま話 Blog

通 柱

カテゴリ: 本質

見積提出の前に契約の内諾を頂いたことが何度かあった。
一般的には、ヒアリングおよび現場確認 → 業務提案と見積書提出 → 両社による内容確認 → 内容の修正 → 契約、となるのだが、稀にヒアリング時に遣り取りしていて、いきなり「お任せしたいと思っています」なんていうトップがいる。
おいおい、大丈夫なのか?
見積提出したとたん「このハナシは無かったことに」なんて言われるんじゃなかろうか?
ありがたさより猜疑心のほうが勝ってしまい、寝つきが悪くなったりしたものだった。

契約後、業務が安定した頃にその経営者たちに尋ねてみる。
「あのときなぜ値段も訊かずに決めてくださったんですか?」
その答は全員が同じだった。
手前味噌甚だしいので割愛するが、「質問の内容と掘り下げて訊く個所」が相手様に響いたのだということだった。私自身はとってはアタリマエの質問だったのだけれど。

若い頃、取引先の社長から教えてもらった言葉がある。
「たいして金も無いのにいい家を建てたいならどうすればよいと思う?
あれもこれもを言い並べるのは上手くない。
四隅の通柱だけは四寸以上の本物の檜にして欲しい。
これだけでいい家が建つ」

若く愚かで浅慮な私は、思わず「そんなばかな」と小声で呟いてしまった。
その社長は顔色一つ変えずこう続けた。

「仕事は、一番肝になるところを見極めてそこだけを徹底的に掘り下げるようにしなさい。
一点突破・全面展開という言葉があるが、その一点は何なのか。
それを考えることが仕事なんだよ」

今も尊敬しているし、心弱くなる時どこかで見守ってくださっているとご尊顔が浮かぶ。

良質の檜が四隅に通る現場に入った屋根の職人は、必ずこう思う。
「え、こんないい柱が、、、俺んとこでもらってる値段はたいして高くないのに。
だけどあんまり柱に見劣りするようなのはまずいよな。うーん、仕方ねぇなぁ」
その後の各職も同じように感じる。
肝心なことは、そんなふうに意気に感じる職人を抱えている棟梁を探すこと。
会ったら正直に本心を言えばよい。

社長、その言葉の本当のありがたさがわかったのは貴方が逝かれた後でした。
出来の悪い私をお赦しください。

心から感謝しています。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム