物流よもやま話 Blog

企業内に物流専門職が必要な理由

カテゴリ: 経営

掲題はロジ・ターミナルの核ともいえる最重要事項。
それは事業会社にとって絶対に有益であるという確信のもとに主張している。
「サービス」のページにその内容があるが、補完する意図も含めて、詳しく説明していない部分について書いてみたい。

一般事業会社の皆様には是非ともご確認いただきたいのだが、「物流改善」「EC物流代行」「物流アウトソーシング」「物流コスト削減」などのキーワードで検索すれば、物流会社やその紹介及び情報斡旋業の並びが出てくる。
チェックしていただきたいのは「こんなことでお困りではありませんか?」
という箇条書きやサムネイル化された、
「自社の顧客対応のためには必要不可欠であり、看過・放置厳禁」
の業務内容の代行サポートの項目。
委託するか否か以前に「困っている状況への無対策と思考停止」自体がそもそものつぶすべき問題なのだと申し上げる。

顧客にかかわるサービスについては、WEBデザインであろうが、価格施策であろうが、カスタマーサービスであろうが、物流サービスであろうが、「困ったまま」ではいけない。
困るのは誰でもできるが、それを解決・解消していくことが仕事であるはずだ。
耳元で「全部任せてください。コストも下がります。本業に集中できますよ」とささやく倉庫会社の営業マンやら現場責任者が、笑顔で荷主企業の「困った」をキャッチしてくれる。
追込まれていたり、方策が浮かばなかったり、物流以外の面倒ごとも山積している状況では、「よかった。トラブルの渦に巻き込まれ続けておぼれそうだったが、もうこれで楽になれる」と岩か藁かもわからぬままつかんでしまう。

この段階で、その企業は顧客に対する物流の問題や面倒ごとの解決を自力でできなくなってしまった。
物流用の補助輪がないと走れないということである。
事業の下半身にあたる脚力や支持力を外部に依存している状態。
五体満足であるはずなのに歩行補助器具を装着している。
使わなくなった下半身は筋力が衰え、骨がもろくなり、関節は可動域が狭まって運動どころか自力での歩行すら危ういありさまに。
かたやでとどまることなく発達し続ける上半身。
理論と計算が耳眼鼻からこぼれ出そうな巨大な脳みそ。
そんな状態を招きかねない行為を、一般的には委託やアウトソーシングという。
物流サービスが本業維持のための重要機能、つまり主業務でなければこんなハナシはどうでもよいことなのだが、顧客対応には不可欠で、そのコスト比率もかなり大きい。
だからこそ自社でコントロールできる状態にするべきなのだと考えている。

外部委託自体が悪いと言っているのではなく、そこに至るまでの自社内整備が足らないことがほとんどなので、残念極まりないし、心底から憂いている。
自社商品のさまざまな意匠や差別化・品質管理・イメージへの徹底したこだわり。
自社顧客の各種属性や購買動向の把握・分析・対処・使用感の情報収集には熱心。
なのに、なぜ物流業務の「自社規格」を設計しようとしないのだろう。

物流は「宣伝」「集客」「販売」の仕上げなのだという意識が持てないからなのだろうか?
毎度書いているが、商品はOEMやPBがあたりまえなのに、なぜ物流は「既製品の仕入」なのだろう。
その理由がよくわからない。
企業経営者や経営層の思考回路が、物流の手前で断裂している気がしてならない。

「委託している物流会社は、自社に合わせて業務をカスタマイズしてくれている」という言葉をよく聞くが、その企業の物流業務全体を俯瞰すれば、委託先の物流会社の標準仕様で手当てされている業務がほとんどではないかと思う。
PCモニターに映しだされるWMSや在庫表・業務管理表的なコンテンツのエントリーページが荷主名になっていたり、物流会社が開発した既製品の一般名詞が固有名詞に置き換えられているぐらいが「カスタマイズ」の中身であることは特に珍しいハナシではない。
つまり委託という名で吊るしの物流業務を仕入れている、と同じだ。
その事実が良いか悪いかを問うているのではない。実態を述べている。

たとえばだが、アパレル企業が自社製品を製造するために、必ずしも自社工場を持つ必要がないように、自社運営の物流センターも不可欠ではない。
しかし、物流のOEM・PB化は製品同様に貫徹していただきたいと願う。

物流機能に関しては特殊さや差別化や過剰な品質追及は必要ない。
自社の年・月・週の波動把握や、入出荷の業務フローと総業務量と総作業時間の試算。
在庫管理の諸規定、運用するシステムの機能把握とオペレーションできる人材の確保。
外部委託か内製かを問わず、現場と会話の通じる物流専門職の養成。
そしてその専門職が割り出した基本コストを基にした「物流の原価企画」を確定し、歩留まりの余分を加味した現場での運用実コストに反映させる。
いわゆる「指し値」だ。
ちなみに一定以上の物流規模を持つ企業では、いまさら言うまでもない基本事項であることも付記しておく。そうすることが最善であるという判断のもとに多くの企業が実施している事実をじっくりお考えいただきたい。
必要最低限の物流コスト計算ができるページを用意しているので、併せてご紹介しておく。試算のお役に立てれば幸甚であるし、検証や行動のきっかけとなるなら更に良いと願う)

上述の内容を運用できているなら、運営形態がいかなるものであろうと、すでに立派な「自社物流」であると断言する。
そして中小企業なら、極端にいえばたった一人の「物流専門職」の存在で実現できる。
その専門職の技量は、物流会社の営業や現場責任者と同等以上。
自社物流であろうと外部委託であろうと、「適正」「過不足なし」「妥当」の判断基準に大きな錯誤や思い違いは起こりえない。

なぜなら物流プロフェッショナルの域に達しているからであり、あとは年数の積み重ねが熟練の妙味と精度の向上をもたらし、後継の人材育成も行える。
企業内の他部門ではあたりまえのことではないだろうか。
他部門のあたりまえを物流部門でも行うことに何も支障はないと考える。
端緒を切る部署や人材がないのであれば、当面その代わりをつとめつつ、専門職養成によって機能の内製化をすることがロジ・ターミナルの役割だとご理解いただきたい。

自社の業務管理はすべて自社で行う。
自社の経費管理はすべて自社で行う。
自社の人材育成はすべて自社で行う。
自社の顧客対応はすべて自社で行う。
自社の機能運用はすべて自社で行う。

物流は自社の事業を支える機能部門の一つ。
もし他所に預けて久しいなら、たまには呼び戻して根掘り葉掘り訊いてみてはいかがか。
自社の重要不可欠な機能を、自社による原価企画を経ないまま委託し続ける経済状況ではないし、今後はもっと厳しくなってくる。
先を見越して現状改変に臨む経営者の選択肢としてご一考いただきたいと願う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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