物流よもやま話 Blog

物流倉庫見学会「参加者の本音」

カテゴリ: 実態

昔取った杵柄。
なんていう言葉を思い浮かべながら書いている。
今回は全国多数の物流会社が実施する「倉庫見学会」についての一席。
実は、物流リアル〈本気のQ&A〉の質問投稿フォーム経由で数社からご質問いただいているのだが、あのコーナーにはなじまないので、今回の記事で回答を兼ねてつづりたいと思う。
あくまで自身の経験をもとに記事作成している。
したがって、その内容が全社共通の事象とは限らないということも事前にお断りしておく。

倉庫という箱を持つ物流会社なら、客先であれこれ対面営業するより、自社の庫内に呼び込んで、現場という土俵で勝負することがもっとも有利。
百聞は一見に如かずということだ。
「一見」が必ずしも好印象や高評価につながるとは限らない。「百聞」だけでやめておけばよかった、みたいな感想も少なくない。
見学会のメニューとして、

1)  何らかのテーマを掲げたセミナー的プレゼンテーション

2) 倉庫内見学・現場業務説明、WMS等のデモンストレーション

3) 質疑応答や個別相談

という三部構成が一般的だと思う。
(庫内見学が先の場合もあるが、そこで退席する参加者を出さないために二番目が多い)
主催側は毎度のことなので、段取りや見せ方・話し方の要所は心得ているし、複数企業の類似イベントに参加している物流担当者なら「あぁ、このパターンね」と内心感じながら、お互いしたり顔でやり取りする。

変なたとえかもしれないが、寄席の落語に似ている。
同じ噺であっても、落語家によってかなり違う。調子や表情、所作や間。
聴き手はそのあたりの違いに自分の好みの順番を付ける。
倉庫見学会の参加者もそれに似たような「なんとなく」の印象で候補を絞り込むことが多い。

しかし、本質的な要点はまったく別にあると思っている。
倉庫見学の際に長々と続く物流業務技術や現場でのミス防止の仕組、受注・出荷引当情報管理やWMSの秀逸性、多数の受注管理ソフトとの互換運用。
謳い文句は勇ましいが実務の具体的な説明のない越境EC対応。
医薬品や医薬部外品、化粧品類の製販許認可、コールセンター設置、受注管理処理を代行するカスタマーサービス。
今や死語に近い「ささげ」対応。
確かに至れり尽くせりと感じるだろうし、丸投げ型の企業なら渡りに船がやってきたようなものかもしれない。

だからこそなのだが、てんこ盛りの荷主対応サービスを用意する物流会社に魅力を感じる企業は、実のところ物流業務に重きを置いていないことが多い。
PC販売の宣伝文句でよくある「オールインワン」「フルパッケージ」と同じ嗜好の選定眼のようにも感じる。ビギナーや無関心ゆえのお任せ的な「こんなものでいいのだろう」という思考停止ラインがはっきりと浮き上がっている。
「これで全部の面倒がなくなる」「あれこれ選んで考えるのは煩雑で時間もかかる」「ともかくここに依頼すれば楽になるに違いない」といった潜在的な意識が強く作用している。
10年前ならそれはそれでなんとかなった。
しかし現在では「面倒がなくなる」「煩雑からの解放」「楽になる」は、必ずしも正解とは言えない。
得たものと失ったものの比率が逆転してしまったからだ。
特にこの数年で。

「全部できます=全部そこそこです」がよくあるパターンなので、俗にいうカスタマイズや圧倒的な差別化のための加工が不可という事例も少なくない。
不可ではないが、パッケージ化された平均点的サービスの提供者にカスタマイズを依頼した場合、かなりの確率で割高なコストがかかる。
場合によっては値段の割に程度が低い、という可能性も否定できない。
餅は餅屋で買ったほうがよいという典型だろう。

で、ここから先は見学会参加者側の感想と実情と本音のハナシとなる。
ちなみに公の統計ではなく個人の経験や顧客からのヒアリング内容を記す。
倉庫見学会参加者が、帰社後に上司もしくは同僚や部下に伝える感想と所見の中で最も多いのは以下のとおり。
全部だと多すぎるので、頻度の高い言葉を並べてみる。

・スタッフの挨拶がすばらしかった
・トイレの清掃が行き届いていて気持ちよかった
・床がピカピカだった
・照明が全部LEDで、明るくきれいだった
・素敵なデザインのPOPや棚が整然と並んでいた
・いろんな業種の企業が委託していた
・何でもできるということだった
・広かった
・写真のイメージより狭かった
・すごく大きかった
・写真のイメージより小さかった
・暑かった
・寒かった
・空調が効いていて快適だった
・トラックが頻繁に出入りしていて忙しそうだった
・たくさんの従業員さんが作業していた
・セキュリティがしっかりしていて、全フロア毎に認証なしでは入れない
・最新の設備がたくさんあるという説明だった
・庫内システムが完璧なので、ミスは未然に防ぐことができるそうだ
・有名企業の物流業務を委託されているらしい
・毎年顧客数が増えて、拠点数も同様に増え続けている
・指定通りにデータ整理して任せれば、すべてうまくゆくという説明だった
・実力はすごいのだと胸を張っていたが、資材保管用の棚やパレットは雑然としていた
・たくさん説明はあったが、結局値段のことには触れずじまい
・主催者が個別対応したい参加企業と、それ以外が露骨に区分されて不愉快だった
・喫煙所が倉庫建物の入口にあり、火災だけでなく臭いの点でも気になった
・ヤマトや佐川のドライバーが、倉庫の喫煙所でタバコを吸いながら休憩していた
・撮影・録音禁止だったが、主催の倉庫会社側は承諾なしに参加者を撮影・録音していた

なんかもうおなか一杯になってしまったので、これぐらいで止めておく。
まず、物流会社の業務品質や技術に関するコメントが少ない。
あったとしても「だそうです」「らしい」「のようだ」的な当事者意識の低い言葉が並ぶ。

「清潔で挨拶もしっかりしていて、たくさんの企業が契約しているから大丈夫」
「セキュリティと庫内システムが最新なので、業務内容は素晴らしいのだろう」
「全部任せれば安心だと感じた。物流会社の指示通りにするだけでよいらしい」

たとえばのコメントだが、全部実話に近い。
連想ゲームと似ているが、ヒントの先に正解がないところがちょっと違っている。
そのうえ参加した本人が現場見学の際の「なんとなく」だったはずの根拠を、いつのまにか事実と混同してしまうために、数時間後か翌日以降に自社に持ち帰った時にはそれが答や結論に近い発言や報告になってしまうことも少なくない。
これこそが倉庫見学会開催者側の狙いともいえる。何度かやっているうちに印象操作に専一するようになってくる。契約のためには一番の近道だと気付くからに他ならないからだ。
好印象やイメージというハードルを乗り越えて、後付けの囲い込み材料として現場で説明された「なんとなく覚えている技術論」が効いてくる。

床がきれいでLED照明が輝く倉庫内の環境と物流技術はまったく関係性がない。
気持ちの良い挨拶と清潔なトイレは、デパートでも自動車ディーラーでも一般の事業会社の事務所でもあたりまえであるし、それが本来の商品やサービスの優劣を左右はしない。あくまで補完する基本的な礼儀や接客作法であるに過ぎない。

「挨拶がハキハキしていて、トイレがきれいで、照明が明るく、飲み物などのサービスも行き届いているので、車を買ってもいいのではないかと思いました」

という購入希望者はどれほどいるのだろうか。
ゼロと断言するつもりはない。メーカー・車種などが事前に比較検討可能な自動車市場だからこそ、付加的な部分でしか差を実感できないことも起こりえる。実際にそういう「いきおい」や「フィーリング」で意思決定する人々も多いと感じている。
しかし、その時点で購入後のクレームや不信感の種を自ら蒔いているのでは?と過る。
「原因と結果が同時に出現」という毎度の持論で恐縮だが。
視るべきは車の主要諸元であり、店舗のアフターサービスであり、経年後に想定されるメンテナンスとそのコストの概算だったはず。「月々〇〇〇〇〇円でいけます」「下取り価格を頑張って、オプションも目一杯」のような言葉は購入者を守る言葉ではない。
蒔かれてしまった種から「行き違い」「思い違い」「食い違い」という芽が出て、少しづつ大きくなってくる。しかし購入・販売に携わった当事者は非を認めようとはしないだろう。

それと同じ定規で倉庫見学者たちのコメントを推し測れば、ずいぶんと乱暴な連想のもとに意思決定の第一段階を通過するケースが多いと感じる。
他業界との違いの第一は、倉庫業務の統一規格や基準単価的なものが存在しないこと。
加えて、第三者が確認できる情報開示された競争が少ない。
それから、利用者が倉庫業務という要所に対して、値段以外の検証をほとんどしない。
などが原因の上位を占めている。
洋服やレストランや自動車なら、綿密に情報収集して比較検討するのに、物流については選別感度が鈍化してしまう。
月額18000円前後の複合機能付きコピー機のリース料金を、他機種や複数代理店に相見積することは社内規で決まっているのに、物流については報告ベースで漠然と検討が始まる。
決め手を欠くたびに「もう何社か調べてみようか」と、別の倉庫比較サイトへの登録や見学会情報の収集にはげむ見積難民となった担当部署の面々。
情報過多と決定基準不在の波間を漂ううちに、手に触れたものが藁であっても掴んでしまいそうになる。

金額の大小でその対象の値打ちを判じる気はないが、月額数千円のコスト削減に対する向き合い方と、何十万もしくは一桁上のコストに対する対処の逆転や温度差に困惑してしまう。
社内にあるすべてのコピー機のリース代の何か月分が毎月まかなえ、ひょっとしたらお釣りがくるかもしれないのに。
「鵜呑」と「眉唾」という言葉が交錯する。
「物流機能選定について、どう考えても情報分析の検証と判断するための手順があいまいではないか」という無念さを抱いてしまう。
コピー機を選ぶ以上の細心さと多角的な視点で、眉に唾をつける聴き方や質問も織り交ぜるぐらいの用心深さで行っていただきたい。
「だからといって物流業務を委託すべきか否かの意思決定の主要因にはならない」という冷静な判断を貫き、第一段階での雑情報の連想からくる「鵜呑」を回避してほしい。
業務フロー設計やスポット対応の柔軟性(自社の希望にどの程度あわせてくれるのか)、トラブル発生時の連絡と対応・事後処理ルール、棚卸の規定、受注管理や在庫管理の自社システムとの連動の可否もしくは個別オプション対応のコスト、その他事前の準備すべき内容、、、

「失敗しないように」と全社が望んでいるし、そう心がけて見学会に参加する。
基本的な事前準備ができていれば、そんなに大きな見当違いは発生しない。
スーパーに買い物に行く前に「今日買う品物のリスト」をメモ用紙やスマートフォンなどのメモ機能に書き出しておけば「買い忘れ」は避けられる。
メモにない「余計なもの」「買うつもりがなかったもの」を買うか買わないかは本人次第だし、その追加購入が良かったのか悪かったのかはその家庭の生活環境や食事情次第。

奇妙なたとえに聞こえるかもしれないが、実は倉庫見学会参加者が必ず見分して、事後に検証と評価をしなければならない「基本的なポイント」と同じことを置き換えているだけ。

物流倉庫見学版「お買い物メモ」の例示?

それは有料となりますが、皆様ご注文どうでしょう?

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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