物流よもやま話 Blog

人不足の主因は「魅力がないから」という現実

カテゴリ: 経営

今さらだが、運送業界の人手不足は深刻を通り越して、不可抗力的な事実として受け止められている。単なる労働人口の減少に比例しての自然減――というのは要因の一部に過ぎず、多くは業界が自ら招いた因果の報いに見舞われているのだと思う。
それはドライバーに限らず庫内作業者にもあてはまる。
世の中を眺めれば、身から出た錆に苦しんでいるのは物流業界に限らなさそうなのだが、「錆」のワーストランキングの上位に居座って久しいことは公然の事実なのだ。

若者が物流業界を望まない理由。
その第一は「低賃金・重労働・悪環境」のイメージ先行によるものではないだろうか。
つまり「物流業界では働きたくない」ということだ。
まったくの了見違いですよ、と言い切れないのが正直言って辛いが、なぜそのようになっているのか、そうなってしまったのか、をちょっと考えてみたい。

物流現場の人員不足(現場に限ったハナシではない)の原因を探るべく、現象や理由の上流をたどれば、まずは経営の凝り固まった心理にたどり着く。
それは「人は欲しいが安く使いたい」に他ならず、他人様より損したり間抜けとならぬよう、とびきりのお買い得品を入手するべく購入希望品を値切る人々に酷似している。
言い換えれば「労働力は欲しいが、どこよりも安く確保したい」のであり、安い労働力=競争力の源泉、というガチガチの固定概念が深層心理にへばりついている。
現場労働力同様に、その管理者にも多くを求めないのは「物流業務は管理者以下、誰がやっても大差あるはずない」と内心で思い込んでいるからだ。つまり単なる作業の連続であり、人出と場所さえあれば、時間経過に応じての成果が出る――と疑いなく思い込んでいる経営者や幹部連中のなんと多いことか、、、ボーっと生きているわけでもなさそうに見受けられるが、物流機能については人が変わったようにステレオタイプ的アホになる経営層は多い。

という内実からもわかるとおり、本当に欲しいのは人材ではなく安い労働力なのだ。上辺の建前の下地にそれが透けて見える企業を労働者が忌避したくなるのは無理もない。
よく言われるように、人をコストとして勘定し、多い少ないと頭を悩ませているのだから、安い賃金でせっせと働く人々を最も好ましいと感じるのは当然だろう。
物流現場の総合力=馬力とコスト、以外の発想や着眼点を見出そうとしないまま時間が過ぎてゆくばかりで、いつまで経っても現場労働力の安定化や業務品質の向上は成し遂げられないのだが、その状況に疑念を抱くことすらしない経営層は結構多いのだ。
卵と鶏の議論に似て、経営者が気付くか、誰かが気付かせるか、のいずれかの契機が到来しないと抜本的な変革は始まらない。
さらに書けば、素晴らしい物流機能は営業の最前線を強くするし、財務体質の強化に寄与すること間違いない。物流品質の向上は物流コストの低下と同義なのだが、それを知る経営層はあまりにも少ないのがわが国の現状だ。「強い物流は良くて安い」は普遍的国際標準として認知されているし、そこにこだわらぬ事業体は競争力の脆弱性を排除できていないと評されてしかりなのだから、こぞって手間暇かけるべきである。

では今からの策としていかに行動すべきかだが、まずは自社の物流機能を自前化することが1丁目1番地となる。過去にさんざん書いているとおり、ここでいう「自前化」とは物理的な内製化とは全くの別物だ。
自社の物流業務を自社で設計して、その手順作成やコスト根拠算出を自前で行えているか否かの検証から始めるべきで、実務を内製化かするか外部委託するかは大きな問題ではない。
どこの誰がやっても自社の求める物流機能を維持運営できることが自前物流の要件であり、それは自社商品の原価企画や仕様・意匠を自ら行うことと全く同じ価値観である。

自前物流とは?

スタート地点を間違えなければ、その努力の方向性はブレることなく報われるに違いない。
その過程で、自社の物流機能に必要な人材像が明確になるので、社内のしかるべき人物を候補とすればよい、、、といいたいが、物流意識の低い事業会社で異動先が物流部門である場合、大いなる誤解や絶望感を対象者が抱いてしまう可能性が高いし、直截に書けばほとんどの企業では左遷人事と自他ともに受け止められる。
物流変革を断行する際の人事や社内機構改革については、経営トップもしくは準じる上位者の直轄・陣頭指揮を必添としていただきたい。それだけの価値はあるし、ことが順調に動き出したあかつきには、事業寄与の大きな収穫を得ることができる。
太い道筋をつけておけば、続く組織編成や社内外からの人材募集などは円滑に進むだろうし、募集広告の面や文言の中身も訴求力が強まること必至なのは経験的に断言できる。
できる人から辞めてゆく悪傾向は止まり、健全な新陳代謝が維持されるようになる。
こうなれば、巡行状態の維持を心がけながら、さらなる高みに向けての改善を試行しては検証し、じりじりとレベルを上げてゆくのみだ。
何よりの強みは、競合他社から視え難く、模倣できないという内包的競争力の最たるものとなる点である。もし仮に他社の知るところとなったとしても、容易に真似したり複写するように転用できない独自性の塊の存在を前にして立ち往生するだけだ。
総花的に書いているつもりはないが、物流機能の強化を外部に丸投げ依存しないと決めた事業者の堅実な強化進捗のすごみを知る者としては、否応なく語気が強まってしまう。

構造的人員不足を憂いていてもことは解決しない。
かといって、安易に自動化への投資を行うには時期尚早という気がしてならない。
そんな経営者たちは、まず足下から見直していただきたいと思う。
事業の足下とはまさに物流機能のことであり、言い換えれば事業推進の下半身にあたるのだ。
販売や企画開発のような事業の上半身に相当する部位が縦横無尽に躍動するためには、しなやかで強靭な下半身が不可欠ではないだろうか。

毎度の結論となって恐縮だが、経営層が物流に手を付ければ、現場労働力は自然と充実する。
風が吹けば桶屋が、、、、や、バタフライ・エフェクト、ほど多層構造の経緯を紐解くようなハナシではないので、即実行あれと推す次第だ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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