物流よもやま話 Blog

自動運転と物流業界

カテゴリ: 予測

今回は派生記事である旨、先にお断りしておく。
現在執筆中の寄稿予定原稿から一部抜粋、補足して書いている。

もはや自動運転の進化と普及は足踏みすることなく拡がり、万人が違和感を抱くことなく社会に浸透するだろう。
運転の補助機能から完全無人化に向けて、技術や環境そして法整備までが着々と進んでいる。
「街中に自動運転車両が増え、その大多数は電気自動車や燃料電池車であり、公共交通から商用までのほとんどがそうなったとしたら」
という仮想をこの数年間でさまざまにしてきた。

今後の世の中はどう変わるのか。
その結果として、物流業界にどんな変化や代謝が生まれるのか。
仮想というにはあまりにも確からしく生々しい。
大きくズレてはいまい、と幾度か自答したのだが、それは必ずしも明るく希望多いハナシばかりではない。
思い至った内容は以下のとおりだった。
(以下、EV:電気自動車、FCV:燃料電池車とする)

EV・FCVの普及により、排気ガスと騒音が減る。
EV・FCVの普及により、自動車メーカーの数が増える。
EV・FCVの普及により、バッテリーの供給競争が増える。
EV・FCVの普及により、ガソリンスタンドが激減する。
EV・FCVの普及により、カーディーラーや自動車修理工場が激減する。
EV・FCVの普及により、自動車へのこだわり方や重視する点が変わる。
自動運転機能の普及により、交通事故が減る。
自動運転機能の普及により、交通渋滞が減る。
自動運転機能の普及により、個人所有の自動車数が減る。
自動運転機能の普及により、運送会社と職業ドライバーが減る。
自動運転機能の普及により、自動車運転免許の取得者・保持者が減る。
自動運転機能の普及により、自動車運転免許の資格区分が変わる。
自動運転機能の普及により、自動車運転教習所が減る。
自動運転機能の普及により、個配サービスの地域間格差が減る。
自動運転機能の普及により、個配サービスの形態が根本から変わる。
自動運転機能の普及により、貨客混載の規制緩和が進む。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、自動車メーカーの存在価値が変わる。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、国内の業務用自動車数が減る。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、車庫の需要が激減する。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、貨物専用車両の24時間運行が常態化する。。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、個配を中心とする「配達」が根本から変わる。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、モーダルシフトへの取り組み方が変わる。
自動運転機能のEV・FCVが増えると、「観覧車型」とも呼ぶべき運行形態が現れる。

まだあるが、上記の項目に関わるいくつかを織り込んで、ひとつの記事を書くつもりだ。
予測ではなく現在進行の内容も多分に含まれるだろう。
各論はすでにあちこちで議論されていることばかりなので特段の目新しさはない。
しかし物流業界と荷主や受領者への具体的な影響についての絞り込んだ言及が少ないこともあって、今現在の私見を書いておこうと思っている。

前提条件や活動環境が変わる。
その波動は強く大きく躊躇なく到来する。
「便利で安くて簡単だから」という行動の理由に抗える仕組や組織はない。
パラダイムシフト。
そんなひと昔前の流行り言葉がよぎる。

通信を例に、個配のインフラ化がもたらす風景を思い描けば、末端のサービスが多様化することは間違いのないところだろう。
一方で、現在の基幹機能である倉庫内や物流網の単一化や標準規格への準拠による同質化・共通化により、必要人員数は激減する。

物流関連の雇用総量減少は最小限に抑えられるとしても、そのボリュームゾーンは現場ではなくマーケティングやカスタマーサービスに移る。
ゆえに今現在の従事者とは異なる資質や労働志向の人材が最多層となり、作業や現場事務のスタッフ需要は減少の一途となる。
一日あたりの平均が1500万程度の個口数に達するであろう個配マーケットは、それまで物流を生業としていなかった異業種からの参入者が多くを占めるようになる。

物流機能の基幹部分で競わないということは、注文時と受領時という両端での差別化が激化する流れにつながるはずだ。
それは「運送業」の囲みを取り払う契機となり、先行する既存配達事業者よりも、後発である異業種からの参入組のほうが、より優れたサービスを提供できる予感を抱かせる。
進化著しく、便利で合理的な複合型配達サービスに期待する法人・個人は多いだろう。

しかしながら。
受領者のためにはなるが、業界の雇用展望として必ずしも歓迎できる内容ばかりではないし、現場作業者雇用の先細りや部分的な消失にまで及ぶ可能性が高い。
したがって、先進性や合理性を追求し、究極の姿を思い描きながらも、かたやで「人間の居場所がなくなってゆくではないか」という戸惑いや動揺を伴った危機感が膨らんでいった。

人間が考え人間が実行する人間の暮らしのためになる仕組。
しかしそれが人間の働く場の喪失や働き方の単一化をもたらす。
淡々と書き切ればよいと念じつつも、数知れず手が止まったことを記しておく。

「本当にいいのか?」

は私だけのつぶやきではないと感じている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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