物流よもやま話 Blog

越境の地では

カテゴリ: 予測

今や越境ECは多くの企業が実施もしくは構築中の状態である。
そして今やその市場は中国に留まらず東南アジア諸国に拡大し続けている。
中国市場については現地法人設立の高いハードルと模造品氾濫などの問題があって、その大半は越境ECという選択肢に落ち着いている状況だ。
加えて中国政府の国策として、自国内消費拡大の大号令の下、国外決済は好ましくないという基調が明確に表れており、中国国民相手の越境商法の将来は現状暗いと言える。

一方でシンガボール、マレーシアなどをハブとする流通網拡大の先にある市場は、必ずしも越境ECとは限らない。
言うまでもないがタイやミャンマー、インドなどの巨大市場が背後にあるので、各国資本は躍起となって開拓と深耕強化を図っている。
世界一の中国市場に追随するため、それ以外の諸国は外国企業の進出障害を可能な限り取り除くだろう。その利権にアメリカやロシアが関わらぬはずはないし、追われる中国が静観することもあり得ない。
新興市場に強国資本とノウハウが持ち込まれる。通貨やストック市場の操作も含めて、さまざまな駆け引きと伏線がはられる。
陣取り合戦は当面続く。

海外の巨大資本から潤沢な資金を得た新興諸国は、最新の技術と設備の物流インフラを整備するに違いない。世界中の企業が簡易で低コストなサービスの恩恵を感じられるような。
そうなれば現在日本国内で「越境EC」と銘打っている不効率でコストのかさむ仕組―自国内の物流施設で個口別に梱包完了した荷物をわざわざエアー便で現地に飛ばし、相手国内の流通網に乗せる―は不要になる。
保税倉庫収納分以外の天猫国際ルールを踏襲する理由がなくなる。

その新しい市場に最も資本投下し深耕しつつあるのは他ならぬ中国だ。
正確には企業活動を利用した国家戦略。
政商という表現以外にあてる言葉が浮かばない幾つかの巨大企業。
競合や新興を一瞬で呑み込むことが、経済協力圏の拡大という名で支配するための侵攻方法なのかもしれない。
欧米資本の新興市場侵食を許さぬ意図が明確で、強国理論に基づく正攻法とも解せる。
拙速ともいえる急進的な手法が目に余ることも少なくない。
ふと、「中国内需は転換点にさしかかっているのか、もしくはすでに潮目が変わっているのではないのか」と勘ぐってしまう。
いずれにしても、経済という兵器で近隣に侵攻する戦略が明白だ。戦いの知恵と事例は世界一の国ゆえ、競合国も同盟国も友好国も細心の注意をもって接しなければならない。

マーケット分析は門外なのでこんなあらまし程度しか書けないのだが、そうなると国内物流ではあたりまえだったことが通じなくなる可能性が大になる。
一つの例であるが、しかし恐らくは普遍的なものだと強く感じていることがある。
「阿里巴巴集団」のグループ会社に「菜烏網絡」というのがある。
日本風に言えば物流子会社なのだが、アマゾンロジ同様、高度なIT技術を用いた物流設計と管理を行っている。
4年前にそのスキームと理屈を知ったときのショックと感動は今もはっきりと覚えている。
素晴らしく秀逸で直感的に辿れる物流設計とは、これほど単純で明快で顧客本位なインターフェイスと連続性を提供できるのだと。
私自身が何年間も疑問視し、憤慨してきた「国内のECマートに繋がる物流業務ではなぜこんなことぐらいできないのか」が全部実現実行されている。
呆然とする短い時間のあと喜びにあふれた長い時間が続いた。

更なる驚きは、他にも似たようなスキームで運営している企業が中国国内には多数あり、それは疑うことなく米国で発達した物流システムやアマゾンメソッドの進化形に他ならない。
成長著しい市場ゆえ、中国国内の市場最前線では様々なトラブルが絶えないだろう。
しかしそんな混沌も時間の経過とともに必ず修正されるに違いない。
世界一と誉れ高い日本の個配だが、中国国内ではかなり近いレベルのサービスが普及しつつある。「サービス」に対する考え方は似て非なるところ大だが、機能的にはより高度で合理的な仕組みが走っているのだ。
狭い島国の話ではない。
あの広大で起伏にあふれ、道路や交通手段もまだ十分でない国で、すでに物流インフラの基本規格が完成しつつある。
かたやで我が国では、、、
配送料金契約云々だとか、働き方改革云々だとか、残業代不払いで組合とどうだこうだとか、アマゾンのせいであーだこーだとか、180サイズ以上はどうだとか、、、
議論の内容が非常に情緒的で合理性や機能主義の貫徹が弱い。
労働量確保と雇用条件やサービスの対価としてのコストを当事者が折り合えばよいだけのハナシなのに、なにゆえメディアや業界関係者はおかしな方向と論点で騒ぎ立てるのだろうか?
理解に苦しむし、あまりに稚拙で恥ずかしい。

もちろん世界中で似たような運用トラブルや業務問題は存在する。
労務適正化と労使の利害調整は永遠のテーマ、ということも経済成熟と表裏一体。
が、それが経営に多大な影響を及ぼし、メディアから財界、行政まで巻き込んで感情的な議論をしている段階で、すでに後退国なのだと思う。
発展限界に達し、次の生き方を考えなければならない立場であるという事実。
中途半端な設備依存・人間依存が断ち切れない日本の国内物流は、世界の水準や基準から遠ざかり、取り残されてしまう。
これは予測ではない。れっきとした「今」なのだと感じている。
すぐに過去形になってしまいそうで不安この上ない。

物流は機能。
分析と理論と設計が整えば誰でも同じことが出来る。
国境や人種など全く関係なく共通理解と運用ができる。
極端に言えば、数字とアルファベットだけでなんとかなる。
共通語などなくても協業も作業も相互理解も可能なのだ。

飛行機で数時間の隣地でそんな価値創造と規格進化が続く。
膨大な人口と広大な国土。
絶えることなく滞りなく、消費者へのサービスが施される仕組が開発され続ける。
かつてアメリカ合衆国でITと物流が一体となって普及成長したように。
なぜ日本国内にはそんな情報が少ししか届かないのか?
届いていても拡散しないのか?

危機感が無い、としか思い当たらない。
もはや世界の成長市場からは引退しているのだから恐れることはない。
などが実態なのか。
中国もその他アジア諸国も欧米も日本という市場に魅力を感じていない。
なので誰も攻めてこないから、というわけなのだろうか。
世界遺産や古都などをめぐる観光客相手の老人国。
黒船はこないぞ。
あぁ、よかった。安心安心。
極東の島国は、若く活力に満ちた国々の戦いを眺めるのみなのだろうか。

年寄なりの意地と腕のみせどころはまだまだたくさんある。
という独り言をつぶやくのは私だけではないはずだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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