物流よもやま話 Blog

業務と労務

カテゴリ: 予測

最低賃金は今後も上がり続けるだろう。
雇用は正規・非正規の区別がどんどん薄れ、労働に応じた対価を給与と呼ぶようになる。
社会保険運用基準も大幅に改変される。
今まで免責であった中小企業も、年額100万前後の給与支払いに該当するパート従業員に厚生年金や健康保険への加入が義務化される。
正社員と同水準までは至らなくても、賞与支給や福利厚生の適用範囲拡大まで運用義務が強化されると予想している。
「労働」「就業」「雇用」という定義が根底から変わるような気がしてならない。

労働者保護という正論と建前のもとの「収税・収財強化」という国策なのだろうから不可避に到来するに違いない。そんなに先のことではなく近々に実施されるだろうと感じている。
しかしながら、役職給は存えるので、完全な同一労働同一賃金とはならない。
年功の序列は一定程度考慮されるが、年齢の序列は完全に廃れる。
最低賃金は上昇するが、平均賃金は下落の一途。
ほとんど労働者が「そこそこ」「平凡だが平穏」「個人の時間を楽しむ」「可処分所得は増えないが可処分時間は増えた」のような暮らしを良しとする社会の到来が視えるのは私だけなのだろうか?

これが「今から起こること」であると考えている。

なので属人的な業務が多い企業ほど競争力を失う。
長い経験や熟練の結果得る技術や機転の尊さを軽んじているのではない。
属人性を廃すべき業務と廃してはならないそれの区分が明確にできているか否かが明暗を分けるという意だ。
総コストに占める割合から見ても、物流コストに手をつけない企業はあり得ないだろう。

労働環境の見通しについて、日本が最も参考にしなければならないのはヨーロッパ、特にイギリス、オランダ、ドイツであると思っている。
いずれの国も日本と共通する要素がたくさんある。
先に栄え、先に老いた。
大きな流れを俯瞰すれば、経済は鈍化もしくは維持、退化、切捨てを試行錯誤しながら今に至った。
もはや政策や外交では自国の市場を活性化することなど不可能だと気付き、目を逸らさずに現実を認めて、老成を第一義に経済を動かしている。
それらの国々の労働環境と労務基準は非常に興味深く、参考とすべき点が多い。
特に物流のような現業については素晴らしい工夫と知恵が随所に見受けられる。
決して後ろ向きではなく、与えられた条件の中で得られるであろう最大限の工夫と自由。
我々日本人は謙虚に素直に学ばなければならないと痛感する。

労務問題から逃げてはならない。
一人当たりの人件費を上昇させない努力もほどほどに。
経営者、経営層には是非ご考慮願いたい。
「ジタバタせずに覚悟しなはれ。貴社だけが損したり愚挙と誹られることではないのですよ」
と声を大にして断言する。
この発言に責任を負うし、明日からの世間の動向が違うのなら謝罪と断筆を約す。

では具体的にどう対処すればよいのか?

時間単価を抑えるのではなく、のべ人員の総数、つまりは総労働時間を減らす工夫をすることが最優先。
10人で残業含めて2000時間の労働総量を1800時間に減らすような仕組みを構築することが健全な方策。
時給を10円やら20円削るのにあくせくするなんてやめてほしい。
むしろ厚遇するべきである。その場合は10円とか20円で大丈夫。
厚遇の本意は金額の大小ではなく周知なのだから。
考えるべきは「誰を厚遇するのか」だ。
そこは現場管理者に熟考してほしい。
評価されて喜ばない人は少ないはず。それをうらやみ、求め目指す人もいるに違いない。

担当作業の約束事が明確でレポートラインが機能しており、管理者は必要な指示や質問のみ。
なので、勤務中はひたすらに自身の役割を全うすることだけに専念していればよい。
和気あいあいもアットホームも仲間内の親交も現場には「要らんもの」なのだ。
人が辞める原因は前述の情緒的な「要らんもの」が、建前やハリボテ的な「職場の雰囲気」というよくわからない理屈に置き換えられ、裏目に出ることが多い。

「ひとつの理想であるが、現実的には」と口に出す者に管理者の資格と資質はない。
思考や行動を放棄して、理屈や建前論を口にするなど論外。
現場に出勤して左団扇で涼んでいた時代はもう終わった。
「できない」は「やらない」と同じだ。

人材確保と労務遵法は企業にとって重い。
残業規制や有給取得の義務化は加速的に監視強化されるはず。
罰則の適用基準は厳密化され、企業ごとの実態調査や申告制度も整備される。迂回する方法を画策したり調べたり、抜け道を尋ねたり探すことは徒労に終わる。
労基による査察対象と頻度は拡大増加の一途となるはず。その精度も上がる。
そして永遠に続く。
免れる企業は皆無。
だからこそ、逸らしたくなる視線を自律して戻し、絶対に先送りや迂回をしてはならない。
見送ったり逃げた順に会社は衰退してゆく。

貴方が経営者・経営層ならすでに感じているし判っているはずだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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