物流よもやま話 Blog

保管料相場の水門

カテゴリ: 予測

保管料の私見。
極めて独善的であり放埓・極論かもしれないが、記してみたい。

妥当な保管料単価をきちんと説明できる会社は少ない。
一般事業会社、物流関連会社ともに、まずわかっていない。
なので、他社の提示額や「相場という噂話に近い数字」を引合いに出して見積作成する。
「相場」が第三者機関経由の「成約統計」なら引き合いに出す理由にはなるが、残念ながらそのようなものは存在しない。
したがってコロコロ変わる。
疑えばきりがないが、逆に根拠の責を負う必要もないので、気軽に口にできる。
多少高くても安くても「相場ですけどねぇ」で済むので便利極まりない。

近年、保管料相場は奇妙な水門の出現によって異常な水位を維持してきた。
水門の両側で大きく水位が異なる。言うまでもないが相場は水位の高いほうに迎合する。
現状の物流量・不動産需給の実態に即した保管料単価の割り出しは全く無視され、巨大な外資金融の投資と利回りの目論見によって、実状とはかけ離れた相場が形成されてきた。後追いながら国内不動産系の新設倉庫も似たような設定で募集を開始しているので、当面はこの状態が続くだろう。
外資の巨大ファンドに吊り上げられた相場に追随してぶら下がる国内資金。
嫌な記憶がよぎり、苦々しい感情が湧く一定以上の年齢層は少なくないはずだ。

私の見立ては以下のとおり。
2018年の後半あたりから倉庫稼働率の現状が露見しはじめる。
関東は着工前・新築・築浅物件に限っては東京五輪前後まで堅調を維持しそうだ。その他の各ブロックは幹線道路へのアクセスが確保されている内陸部の大規模倉庫以外は厳しい。
湾岸部に林立するメガ・ウエアハウスの実態と、3PL大手の苦境が晒されるだろう。
しかしながら現状の露見こそが、ファンド系や国内財閥系、大手専業会社の3PLの偽らざる望みではないか。
なぜなら床稼働率の上昇見込みがもてないからだ。
かといって自身から言い出すのは嫌だし、今までの広報を違えることになりかねない。
一刻も早く世論化して、「うちだけではないのだ」と公表できるようになってほしい。
稼動5割未満の倉庫なんて、どうやっても赤字になる。
床面積にもよるが、よほどの高単価荷主がひしめかない限り、稼動7割以下なら厳しいはず。

国内外の投資ファンドが国内の倉庫需要をクラスターの一つとして金融商品化してきた。
そしてファンドの宿命として、より有利な投資先への資金シフトも至極当然。
世界経済の停滞時には安定通貨。戦争や不安要素が強まれば強国通貨。
そして最優先は新興国通貨。
つまりは、日本の倉庫事業を純粋に支える資金など皆無に近かった。
投資原本と堅実な利回確保の条件に見合う国のひとつが日本であった。この十数年は。

水門が開いて両側の水位が均されたら、倉庫の保管料相場は下落する。
というか、下げても埋まらない床が恒常的に在るはず。
既存の倉庫業には一定の固定費があるので、ぎりぎりまで下げてでも荷を求める。
外資系ファンドは建物の償却期間が何年残っていようと、撤退時には損切りしてでも資金を引き上げ次の投資先へと向かう。
その際には、巨額の建設費をかけた真新しい倉庫が相場価格を下回る値で売却されるだろう。
購入した会社はその取引における一時の利を得るが、実は地盤沈下の一端を担いだに過ぎなかったとすぐに気付く。

国内物量は増えない。なのに倉庫の床面積は増えすぎてしまった。
事業会社は慌てて倉庫の手当てなどしなくてよい。

少し待つだけでいい。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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