物流よもやま話 Blog

あれから十日あまり

カテゴリ: 本質

前掲に引き続き被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。
ただ祈るしかない無力な自分自身でありますが、ささやかながら震災義援金、そして復興への反転時には必ず訪問し、宿泊や購買にて応援いたします。

元旦以来、「なんという年始めなのだ」と何度か呟いたこの数日間。
仕事始めから「明けましたが、めでたくないことが続いておりますので正月気分皆無ですね」というやり取りが巷にあふれていたように思える。
我われ物流屋にできることは、自身の手許足許をしっかりと見定め、責任をまっとうすることに専念するのみ。他者の明日を想うなら、まずは自身の今日の責を果たすことに努めるのだ――と言い聞かせるような日々だった。

過去の天災時にも心底感じたことが再び脳裏に浮かぶ。自然は人間の事情や利害など一切かまわずに現象を引き起こす。まさに時と場所を選ばす、強弱や大小や軽重の加減なくだ。
だからこそ人間は自然を畏れ敬い、そして祈りを捧げてきたのだろう。
天災に見舞われた者たちは、ひたすらに逃げて、身をすくめて耐え、猛威の収まりを待って暮らしの回復に勤しむのみ、、、という顛末は太古の昔から変わっていない。
予知や防災の知恵や仕組を頭から否定はしないが、もっともらしく喧伝されている人間の「練った対策」とやらが一瞬で消し飛ぶ様を目の当りにするたび思うことはひとつだ。
「最有効な対処は避難。一刻を争って身一つでひたすら逃げること」
であり、それ以外は概ね平時の心理的な慰めや独善でしかないと痛烈に思い知る。

厭世的とは真逆の心理として「開き直り」が必要ではないのか?と自らに問うている。
数多の断層帯の上に位置し、低気圧の墓場と呼ばれる大気の乱場の下にある日本列島。
震災も乱気象も国土のさだめとして受け容れ、徒労に終わる抗いよりも被災時と被災後の行動に寄与する仕組や設備を今よりもさらに充実させるべきなのだと思っている。
たとえば激甚災害時に毎回毎度〝さまざまな事情や状況〟によってボトルネック化して滞る被災者への救援物資の配布などはその典型だ。道路状況などの説明は承知しているが、それを割り引いても目に余る。過去の教訓や経験が活かされていない気がしてならない。

物流業界が取り組める具体的な方策とは、災害時の物資供給だけではなく、倉庫建屋を避難所として解放すること。さらにはその堅牢性を活かし、災害対策施設の補助機能を担う、などが即座に思い浮かぶ。
方形で平坦で広いという特性を被災後に活かす知恵を平時に考察しておくことは大変有意義だし、実際にそのような動きが始まっている事例も承知している。先回りした備えを心がけている自治体や提携倉庫には称賛の言葉を贈りたいが、あえて注文をつけるとすれば「もっと踏みこんで、有事想定を具現化した実地訓練を定期的に行う」という点についてである。
関係各位のご検討を切に願う。

蛇足ながら、近年よく目にするようになった「わが倉庫の堅牢性は群を抜いており、周辺が壊滅的な被災状況となっても、免震・防水の秀逸さと非常用電源・衛星通信によって物流機能は停止しない」などという愚かで稚拙な謳い文句はどうかもうやめてほしい。今まで何度も同じ指摘をしてきたが、こりずに今回も重ねて言う。

天災で壊滅的な被害に見舞われた地域で「堅牢で最新技術の粋を極めた」倉庫建屋が暗闇にポツンと明かりを灯して機能維持できたとして、いったい何をしようというのか。
入荷も出荷もできるはずないし、それ以前に従業員は皆被災者となっている可能性が高い。
自動化やロボットの稼働によって人間がいなくても操業可能?
被災地の無人化した倉庫建屋で黙々とピッキングして梱包を続けるAIが支配する機械の腕や脚を持つ作業者たち。そんな画像は風刺と警告を下地に制作された映画の中だけでよい。
もちろん極論であることは重々承知している。
が、奇天烈で非現実的なハナシだとも思っていない。巷で目にする種々のハナシのページをめくってゆけば、遠からず似たような場面が出てきそうだなと感じて止まぬからだ。

長くなった蛇足をお詫びするが、被災地の実態を切り取りや編集なく見聞きすれば、拙文と似たような感情や思考を巡らせる方々も少なくないと思っている。
BCP(事業継続計画)はCCP(地域継続計画)の下地の上に成り立つことなど自明だし、堅牢な倉庫建屋は被災時における地域の方舟となるべきではないだろうか。
これについては下記拙著でより詳細に説明しているので、是非ご参照のほどを。

「BCMは地域の方舟」第1回(コラム連載)

 

最後となって恐縮でありますが、被災地で物流倉庫を運営する皆様の中で、業務再開への手順や計画書などが必要とお感じならば、どうか躊躇なく私にもお声がけを。
支援拠点における援助物資の受入れ・振り分けに関する手順策定についても同じく。
もちろんボランティアで協力いたす所存だ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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