物流よもやま話 Blog

自社物流回帰の予感

カテゴリ: 予測

東日本大震災によるすべての被災者の方々に黙祷を捧げます。

戦争と疫災によって、世界中に閉塞感を伴う不安が漂っている。
まさに降って湧いたような災いの最中にあって、わが国の物流業界は縮小基調とも闘いながら利益確保に尽力せざる得ない。そんな中で欠片のような明るい兆しを模索する毎日なのだが、何をもって希望や未来を謳うべきかを考えるなら、まずは「満足の中身」を再定義する必要があるという結論に行き着く。
個人同様、法人という人格にも喜怒哀楽をはじめとする感情があると思っているので、時代の潮流を反映して、事業活動は合理と情緒の両面で歩を定めるのだと判じている。

平成末期から空前の3PLブームが続いている。しかしながら長く業績堅調だった物流会社といえども魔法や手品の類を用いているわけではないので、上昇一途の労務費や労務法規厳守、そして恒常的な労働力不足をまかなうための基本コスト増加分を荷主転嫁せざるを得ない。内部でのマークダウンとコスト上昇分の荷主転嫁を巧みにこなしている事業者のみが利潤確保できていると言い換えてもよいだろう。
もはや吸収する限度は超えて久しく、自社の原価と販管費上昇まで見込んで適正利潤付加のうえ請求額を試算すれば、それは受け取る側にとってドエライ値上げ額になる。
効率化や取捨選択によって在庫数量や入出荷頻度を倹約して凌いでいる事業者がほとんどなので、総額の抑制がなんとか維持できているものの、現状のようなエネルギー価格の高騰や高度成長期のベアさながらの毎年上がる最低賃金、そして非正規雇用者の正社員同等待遇の法制化があいまって、物流業務の基本コストは上昇の一途となっている。

手前味噌甚だしいかもしれぬが、なんとなく「物流は自社で」という空気の密度が濃くなっているように感じている。
今さら書くまでもなく、業務委託には人件費と物理的装置一式のコストを立替払いしてもらっているという側面がある。もちろん技術料と付帯事務を含んで割増額を支払うのだが、その手数料は決して安くないはずだ。
おちょこちょいの荷主にありがちなのは、物流会社の裸原価=自社の内製コストと勘違いすることなのだが、それはあまりにも短絡過ぎると苦笑されても致し方ないだろう。
事業会社と物流会社では原価設計と予実管理の時点で大きく差がある。
無論だが、同じ業務を消化しても、まともな物流事業者と荷主企業では所要時間と従量コストに大きな段差があって然り。だからといって、その差額がそのまま物流会社の粗利になるといった時代ははるか昔に終わってもいる。荷主である事業会社が内製化した際の原価と寄託先の物流会社の原価差は年々小さくなりつつあるし、その理由は明快だ。
少子高齢化と大型倉庫の過剰供給が要因である。

毎度くどいが、物流業務は人と床と貨物運搬具でできている。だから人件費や床代や車両や船舶や航空機の製造価格が上がり、燃料代が上がれば、物流コストは高くなる。
これは絶対条件なので、同一環境での比較なら工夫や回避ができない。
従って、我われ物流人は省人化を実現するためのシステムや機器の開発に注力してきたし、上昇する建築コストを埋め合わせるために、空間利用効率向上・在庫数量の適正化堅持のためのシステム監視による省スペース化、各種ビークルの省エネ化と脱化石燃料という要求を受容してきた。その結果、属人的業務や技術は少しづつ排除され、誰でも扱える仕組や機器の台頭が著しくなった。
かたやで、非正規労働者の比率は高まったまま横ばいとなり、今や生産や物流などの俗にいう「現場」における国内労働力の過半以上は非正規労働者といわれる人々でまかなわれている。
その実態の是非を問う立場にないと弁えているが、人材不足の悪循環の一要素となっていることに疑いはないはずだ。

ここまで書けばおわかりかと思うが、人件費・倉庫の床単価・システム使用料などは相当に専門的な狭い分類であっても、WEB上で一定の相場は探れる。
つまりひと昔前まで「プロ市場」「プロ専用情報」として水面下にあったコスト相場が、今ではパブリックプライス化して万人の眼に晒されている。
実務的には倉庫の床コストや個配をはじめとする各種運賃、並びにEC事業者などが多用するOMSやWMSの月額使用料、物流事業者のパート募集賃金などは簡単にすぐに入手できる。
自社の物流業務の基礎数字を試算できれば、おおよその実コストが算出可能となる。つまり委託先に支払っている月額費用との比較ができる。その精度や試算根拠を一定水準にするには多少の場数や知識が必要なのだが、私を含め物流屋が速算する程度の概数なら、事業会社の面々もすぐさまできてしまうに違いない。
現に私の関与先の物流担当者・管理者には、あらゆる物流コストの速算術を身につけてもらうし、それありきで月次や半期・年次の費用評価を行うことが常となっている。
ちなみにその術を体得できなかった者は皆無だということも付記しておく。

今回のコロナ禍によって、既存BCPに盛り込んでいなかった想定場面での人員確保の危うさを痛感した事業者は多い。ましてや委託先の人員稼働状況によって自社の業務維持が大きく左右される寄る辺なさは、今後の事業継続の根幹にかかわる問題として経営が立ち止まって考える機会となった。
雇用の維持は内製でも委託でも等しく困難を伴う一大事であり、物流機能を必要とする業態の事業者には不可避の命題として付いてまとう。
更にはコスト上昇局面でも、全部転嫁する以前の圧縮努力を怠れば、即座に市場からはじき出されてしまいかねない。そのあたりを共有してくれる物流会社を委託先として有していたとしても、他社の利益まで負担して業務委託するほうが有利なのか否かの検証は、多くの事業者の社内で何度も繰り返されるに違いない。

顧客に対して約束するのは、果たして届けるスピードと低コストな物流機能が寄与する低価格を最上位に据えたままでよいのか。
無理が生じがちな即日や翌日の約束事はせず、丁寧に確実な配送機能を顧客サービスの下半身に配し、商品開発や販売手法、カスタマーサービスなどの上半身を支えることで全体最適を叶えようとする事業者――そんな勢力が大きくなってもいいのでは?と愚察する次第だが、残念ながら物流屋である私の分を超えているハナシでもある。
自社の商材を自社の物流機能で捌く。
自社倉庫と自社スタッフを揃えることが自社物流の絶対要件とは考えていないが、「この会社なら自社でできるんだけどなぁ。思い切ってやってみればいいのに」と思うこと数知れず。
食わず嫌いの事業者が多い現状にはちょっと異論反論アリ、というワタクシなのであります。

※関連した内容の過去掲載がありますので、是非ご参照ください。

自前物流とは?

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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