物流よもやま話 Blog

ほしい物リストとベランダ置き配

カテゴリ: 余談

常用のECサイトで「お気に入り」や「ほしい物リスト」などといった一時保管フォルダーを備忘や価格観察の目的で利用している方は多いかと思う。私もそのひとりなのだが、数年前からリスト行数は減り続けている。さらにはリストの内容まで様変わりして、日用や実用の消耗品類が大勢を占めるようになった。そういえば定期購買品の数量も増えている。

リスト内で大きく減ったのは書籍と衣料雑貨類。最大の変化として、音楽や映画のディスク類はゼロに――購買所有からデータでのサブスクリプションに移行してしまった。
データ視聴環境に慣れてしまうと「ディスク購入→コレクション増殖→悦に入る」という過去には戻れなくなった。というよりあれほど眺めていて楽しかった背表紙タイトルの居並ぶ様に魅力を感じなくなってしまったらしい。書籍については辛うじて紙媒体購読を維持しているが、いかんせん読書時間自体が減ってしまっている。なのでやはり購買意欲がわかない。

自身にとっては劇的な変化だが、実は世間一般でも似たような傾向なのだろうと思っている。それはアマゾンやアップルに代表される巨人たちの事業戦略が腑に落ちる瞬間でもある。
モノを売るのは情報供給を絶やすことなく続けるための主たる入口であり、出口は生活・教育・娯楽情報の一元提供――という今さらの実感であるが、実は大昔に始まったゲーム屋さんたちの手法とほぼ同じ、と気付くのだ。

競争市場は各種端末によるコンテンツデータの利用であり、そのコストは購買ではなく使用料、、、つまり所有ではなく一時使用が主流となっている。都市部における自動車所有とレンタルの変位傾向も同質だと思える。移動手段としての機能と移動時間内の一定の快適さのみを自動車に求めている層が、合理的な経済性の選好を経て「持たざること」を選んでいる。
「なるほど」と合点がゆくし、割切り方に感心するばかりだが、ワタクシ的には同じように考えて同じように行動するためには、根深い自意識や抗えぬ違和感を消し去らねばならぬ。

今よりも老いて、免許返納までは猶予があれど、不要不急の自動車外出は控え、ハンドルを握るなら半自動運転機能を必須として――ぐらいにしておかねば世間様にご迷惑をおかけするやもとなれば、筋金入りの「車は自前」の意固地も影を潜めそうだ。
と、今は書いているのだが、CDやDVD収集所有をやめて、サブスクで楽しむなんて死ぬまでできそうもない、と信じて疑ってもいなかったのはほんの数年前のハナシ。
なのでクルマについても現段の心情や信念めいた発言などアヤシイもんである。

データ化して通信網経由で供給可能なモノは、「所有物」ではなく「利用サービス」へと名を変えて生活に根ざすだろう。「買った」ではなく「申し込んだ」が始まりの言葉となる。
そうなると、既存の物流量は否応が無しに減ってゆく。今現在、商品化していない物品でかつデータ化できないモノとその材料については物流量増加の因となるが、既存の物品がデータ化する量のほうが多ければ、全体縮小となる。特にコンテンツ市場と括られる物品については限りなく物流ゼロに近づいてゆくこと必至だ。
ご承知のとおり、物流情報規格の統一化とパッケージの共通化の流れは今後ますます加速し、流域は拡がるばかり。さらには技術革新による合理化と効率化、老齢世代の労働力化によって、来るべき労働人口の減少への手当ては、単なる省人化努力に依らずとも、市場原理の変遷の因果によって一定レベルで成し遂げられそうだ。

半自動・完全自動運転の車両が汎用化すれば、買い物自体の形態や行動が変わる。購買行動が変われば物の運び方も変わる。能動的な受領――BOPISやC&Cの浸透と進化はより拡がりと付加サービスの充実を見せるはずだし、受動的な受領――現状の主たる個配受け取りの形態も人員やコストの課題克服のために変容せざる得ない。
さらに進んで、置き配は玄関ではなくベランダに。路面走行EVではなく個配専用の大型ドローンがすっかり普及し、門扉・玄関やエントランスホールまで行かずとも受領できる。

 

いつものように朝4時過ぎに目覚めて、顔を洗いコーヒーを飲み始めたら、先週購入した品物がベランダに着いた、という報せがスマホ画面に表示された。
室内に取り込もうと窓を開けたら、まだ暗いベランダに居残っていたドローン君が内蔵カメラで私の顔を認識し、本人確認したようだ。

「あっ!いてはったんですね。まいど、おおきに。今日もドピーカンになるみたいですねぇ。明日の朝9時からゲリラセールしますんで、この荷物の送状QRコードをスマホで読み込んで、事前登録しといてください。ここだけのハナシですけど、お気に入りリストの中にある何品かが特売対象となってます。ごっつお得ですよ~」

と明るくハキハキまくし立てるように告知する。聴き終わって、スマホ画面で「受領完了」すれば、ドローン君は回転翼をブンブンしながら、

「ご利用ありがとうございました~。またよろしぅ~ね~。おおきに、失礼しまーぁぁす。」

と言いつつ、ベランダから去ってゆく。
さんま師匠の声だと寝起き直後の受け取りはしんどいな、やっぱり。

「次はキョンキョンの声×博多弁、に指定しよう」
と心に強く誓いつつ、中西ピーナッツから届いた荷を開梱して、ピスタチオの封を、、、、、

というところで目が覚めた。
おそらく正夢となるだろう。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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